ても議論の尽きよう道理はござらぬ、なんとそれをひとつ、実地に験《ため》して御覧あってはいかがでござるな」
こう言い出すと、一座はなるほどと思いました。なるほどとは思ったけれど、
「実地に験してみると言ったところで……」
それはなかなか容易な実験ではありません。やはり空想にひとしいものだとあきらめているらしいが、神尾だけは何かの当りがあると覚しく、
「幸い、拙者がその実験に恰好《かっこう》な犬を一頭所持致しておる、その犬は精力あくまで強く、打ち殺しても死なぬ犬じゃ、時によっては十日や二十日食わずとも意気の衰えぬ猛犬である、その犬をおのおの方に試験として提供致そう、ひとつ生皮《いきがわ》を剥がして御覧あってはいかがでござる」
「それは近頃の慰み……」
と言うものもありました。よけいなことと眉を顰《ひそ》めるものもありました。言い出した神尾がかえって乗気になって、
「そうじゃ、近いうちおのおの方はじめ有志のお方に、躑躅ケ崎の拙者屋敷へお集まりを願おう、その庭前《にわさき》において右の犬を験《ため》させて御覧に入れたい、これも一つの学問じゃ」
神尾が進んでその実験を主唱して、それがために
前へ
次へ
全172ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング