「お前はなかなか力がある。それでなにかい、槍も使えるのかい」
「槍?」
大男は妙なことを言うと思って、米友の面《かお》を見ました。
「そうさ、力はあっても、槍を自由に使いこなすことはできないだろう」
「そんなことはできねえでございます、槍だの、剣術だのというものは、俺にはできねえでございます」
「そうだろう、こりゃなかなか生れつきなんだからな、力ばかりあったって、上手に使えるというわけのものでねえんだ」
力の分量においてこの大男に及ばないことを自覚しかけた米友は、技《わざ》において優れていることを自負しようとしているもののようであります。
「お前さんはこれからどっちへおいでなさるんだね」
大男は力や槍や剣術のことには取合わないで、米友のこれから行くべき方向をたずねるのでありました。
「俺《おい》らか、俺らはこれから江戸へ行こうというんだ」
「江戸へ。そうしてどっちからおいでなすったのだね」
「甲州から来たんだ」
「そうでございますか、それでは俺も、これから武州路を帰るのでございますから、一緒にお伴《とも》をして帰りましょう」
「そりゃ有難え」
「ホーイホイ」
「何だい、先からあの
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