がて大菩薩峠の頂に着きました。
 頂上には妙見の社《やしろ》があって、その左の方に二間に三間ぐらいの作事小屋《さくじごや》があります。
「やれやれ」
 作事小屋には、誰か仕事をしかけて置いてあるらしく、切石がいくつも転がって、石鑿《いしのみ》なども放り出されてありました。
 石工《いしく》の坐ったと思われるところの蓆《むしろ》の上へ米友は坐り込んで、背中の風呂敷から、お角の家でこしらえてもらった竹の皮包の胡麻《ごま》のついた握飯《むすび》を取り出して、眼を円くしていましたが、やがてパクリと一口に頬張りました。
 握飯は大きなのが五つ拵《こしら》えてありました。それですから米友が、いま一つ頬張ってムシャムシャ喰っていると、竹の皮包の中には四つ残るのであります。
 その大きなのを一つ食べてしまってから、米友は峠の下から汲んで来た竹筒の水を取って飲みました。それからまた握飯を一つ取って頬張りました。それを食べてしまうと、また竹筒の水を取って飲みました。三つ目の握飯を米友が食べてしまった時に、惜しいことには竹筒の中の水を飲みつくしてしまいました。これは握飯の塩が利き過ぎていたせいか、或いは米友
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