きりに話し合っていましたところへ能登守が見えたので、その話も止みました。その時分にどういうつもりか、右の焼けて壊れた提灯は、この席でも上の方にいる神尾主膳の手に渡って、留保されるもののように膝の上に載せられます。
 やがて太田筑前守も出席するし、それと並んで駒井能登守、そのほか組頭や奉行の面々以下、勤番の人までが、それぞれ順序によってその大広間に居流れて、やがて会議が始まりました。
 筑前守が席の長者で一通りの挨拶があり、駒井能登守もまた、それに次いで両支配の訓示様のことから会議が開かれ、各組頭や奉行の報告様のことで無事に進行し、その間はいつもする会議の通り極めて月並なもので、末席の連中はしびれ[#「しびれ」に傍点]を切らせ、あくび[#「あくび」に傍点]を噛み殺していました。
 訓示と報告とが一通り済んだ時分、もうこれで散会になるだろうと、しびれ[#「しびれ」に傍点]を切らしたり、あくび[#「あくび」に傍点]を噛み殺していた連中がホッと息を吐《つ》いた時分、
「御支配並びに列座のおのおの方」
と甲走《かんばし》った声が聞えました。誰の発言かと見れば、それは焼けて壊れた提灯を膝の上に載せ
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