のを見ました。
しかも直下する途中で提灯の体へ火がついたから、一団の火の玉が九仞《きゅうじん》の底に落つるような光景を、兵馬はめざましく見物しました。おそらく、ほかの市中の人もそれをめざましく見物したでしょう。
五
その翌日、城中の御番所で勤番の総寄合《そうよりあい》がありました。
月に少なくも一度はある詰合《つめあい》でありましたけれど、その日の寄合は、特に念入りの寄合ということであります。
御老中が見えるということもあるし、また御老中の名代《みょうだい》に、駿府《すんぷ》の御城代が立寄るという噂《うわさ》もあるし、それらの接待の準備や、また先日の流鏑馬《やぶさめ》の催しについての跡始末やなにかの相談もあるのであります。駒井能登守も無論、その総寄合に立会わねばならない。それでお供の者はお供の用意を整えて、主人のお出ましを待っていました。
ここに訝《いぶか》しいことは、まだお君の方が今朝から枕を上げないことであります。殿様の御出仕には、いつも人手を借らずにお世話を申し上げる寵愛《ちょうあい》のお君が、どうしたものか今朝は気分が悪いというて、能登守の前へ姿
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