きほどはクルクルと廻っていましたけれど、今は高いところでブラブラと横に揺れています。
兵馬は三階の上なる能登守と、天守台の上なる疑問の提灯とを興味を以て見比べていました。いったい能登守という人は、妖怪変化《ようかいへんげ》を信ずることのない人であるから、あの提灯についてはいかなる解釈を下しているのだろうと、その心持を兵馬は忖度《そんたく》してみないでもありません。
窓から半身を出した能登守は、ややしばらくの間、その疑問の提灯を見定めている様子でありましたが、やがて取り直したと見えるのがまさしく一挺《いっちょう》の鉄砲であります。
「さてこそ」
あれだ、能登守の疑問の提灯に対する解釈はあれだと、兵馬は少なからぬ好奇心を加えました。
能登守は聞ゆる射撃の名人。あの銃口《つつさき》に提灯の疑問が破られて、同時に、市民の迷信が解かれるのだと、兵馬は頼もしく思って固唾《かたず》を飲みました。
鉄砲を取り直して構えた能登守の姿勢は無雑作《むぞうさ》に見えました。暫らくして轟然《ごうぜん》と一発!
兵馬は天守台の櫓《やぐら》の屋根の上から、疑問の提灯が切って落したように真一文字に直下する
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