》を唱えて火中に入定《にゅうじょう》したというような話は、有名な話であります。
宇津木兵馬は駒井能登守から添書《てんしょ》を貰って、ここの寺の慢心和尚の許《もと》へ身を寄せることになりました。
慢心和尚というけれども、和尚自身が慢心しているわけではありません。和尚は人から話を聞いていて、それが終ると、非常に丁寧なお辞儀をする人でありました。非常に丁寧なお辞儀をしてしまってから後に、
「お前さんより、まだ大きなものがあるから、慢心してはいけません」
王城の地へ上って行列を拝した時にも、和尚は恭《うやうや》しく尊敬の限りを尽しましたけれども、そのあとで、
「お前さんより、まだ大きなものがあるから、慢心してはいけません」
と言って帰りました。
領主や大名へ招かれた時でも、そうでありました。御馳走になったあとでは、非常に丁寧なお辞儀をして、帰る時に、
「お前さんより、まだ大きなものがあるから、慢心してはいけません」
諸仏菩薩を拝んだあとでも、また同じようなことを言いました。
「お前さんより、まだ大きなものがあるから、慢心してはいけません」
慢心和尚の名は、おそらくその辺から出て呼び
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