まするし、それから、あなた様の伯母さんだかお師匠さんだか存じませんが、あのお絹さんというのは、かくべつ御懇意なんでございます、間違ったら御免下さいまし、そのお内で、たしかお松様とおっしゃるのが、あなた様にそのままのお方でございましたよ」
「どうしてそれを」
「がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵と言ってお聞きになれば、あなた様のお近づきの人はみんな、なるほどと御承知をなさるでございましょう」
「ああ、それではぜひもない」
少年はホッと息をついて、がんりき[#「がんりき」に傍点]の面《かお》を見ていたが、遽《にわ》かに声も言葉も打って変り、
「いかにも、わたしが神尾の邸におりました松でござりまする、こうして姿をかえて邸を脱《ぬ》けて出ましたのは、よくよくの事情があればのこと、どうぞお見のがし下さいませ」
「それそれ、それで私も安心を致しましたよ、神尾様のお身内なら、なんの、失礼ながら御親類も同様、これから、お力になってどこへなりと、あなた様のお望みのところへ落着きあそばすまで、このがんりき[#「がんりき」に傍点]が及ばずながら御案内を致しまする」
「なにぶん、お頼み致しまする」
な
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