なじみ》の若い男が手伝いに来たがります。馴染でない若い男もやって来たがります。もしまた出来てしまった間柄である時には、その馴染であるとないとに拘《かかわ》らず、手を引いてこの水車小屋の一夜を、水入らずの稼《かせ》ぎ場《ば》として許すのであります。
 右の若い女が土手道をスタスタと歩いて行く時に、机竜之助は壁の下から軽く飛んで出でました。いくばくもなくその娘のあとから追いつきました。追いついたというけれど、それはほとんど風のようです。風は微風でも音がするけれど、竜之助の追いついた時までは音がしませんでした。
 でも女はその音を聞かないわけにはゆきません。
「おや?」
 箕《み》を抱えたままで振返ると、そこに真黒い人影が、いっぱいに立ちはだかっているのを見ました。
「物を尋ねたい」
「はい」
 女はワナワナと慄《ふる》えました。
 女はワナワナと慄えて、立っていられないために地面へ竦《すく》んでしまおうとした時に、竜之助は右の猿臂《えんぴ》を伸ばして、女の首筋を抱えてしまいました。
「あれ!」
と叫ぶ口を、竜之助は無雑作《むぞうさ》に押えてしまいました。女は箕を取落して、そこら一面に濛々《
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