間体《ちゅうげんてい》のものでありました。
 委細を知らない兵馬は、和尚が自分を選んで附けたのは、こんな場合のことであるなと思ったから、
「エイ」
と言って金剛杖で、先に進んだ一人を苦もなく打ち倒しました。
「この坊主」
 兵馬の手並を知ってか知らないでか、怪しの悪者はバラバラと組みついて来ました。
「エイ、無礼な奴」
 兵馬は身をかわして、組みついて来るのを発矢発矢《はっしはっし》と左右へ打ち倒しました。それは兵馬の働きとして敢て苦しいことではなく、彼等を打つことは、大地を打つのと同じことに、それをかわすのは、縄飛びの遊びをするのと大して変ったことはありません。
 驚いて逃げ足をした駕籠舁《かごかき》も、兵馬の手並に心強く、息杖《いきづえ》を振《ふる》って加勢するくらいになったから、悪者どもは命からがら逃げ出し、或いは橋の下の河原へ落ちて、這々《ほうほう》の体《てい》で逃げ散ってしまいました。
 それから兵馬は、駕籠の先に立って行手の方をうかがうと、その時分に向うから、また橋を渡って来る人影のあることを認めました。
 駕籠屋を励まして長蛇のような亀甲橋を渡り切ろうとすると、左は高い岩
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