大姉、二十一、酉《とり》の女がいま思い当ったよ」
「あなたのお言葉が、いよいよわたしにはわからなくなりました」
「わかるまい、悪女大姉、二十一、酉の女というのは、拙者にも今までわからなかった」
「あれはどうしたわけなのでございます」
「あれはな」
「はい」
「あれは、人に殺された女よ」
「かわいそうに。そうしてどんな悪いことをしましたの」
「お前がしたような悪いことをした」
「妾《わたし》がしたような悪いこととは?」
「男の魂を取って、それを自分のものにしようとしたからだ」
「妾はそんなことは致しませぬ」
「いまに思い知る時が来る」
竜之助が石塔の頭へ手をかけて立ち上った時に、どこからともなく一陣の風が吹き上げて来ました。その風が、颶風《つむじかぜ》のように颯《さっ》と四辺《あたり》の枯葉を捲き上げました。紛乱《ふんらん》として舞い上る枯葉の中に立った竜之助は、今その墓から出て来たもののようであります。
「なんだか、わたしは怖ろしうございます」
日はかがやいているのに、お銀様はその周囲《まわり》が鉛のように暗くなることを感じました。
二
机竜之助はその晩、ふ
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