》を囲んで、定連《じょうれん》が濁酒《どぶろく》を飲んだり、芋をつついたりして、太平楽《たいへいらく》を並べている最中でありました。
前にも言う通り、折助の社会は人間並みの社会ではないのであります。人間並みの人の恥ずることがこの社会では誉《ほまれ》なのであります。これらの人間が、もし女を引きつれてこの酒場へ来ようものならば、「恋の勝利者!」と言って彼等は喝采します、どうかして心中の半分もやり出すものがあると、彼等は喜悦に堪えないで双手《もろて》を挙げて躍り狂うのでありました。「偉い! 楠公《なんこう》以上、赤穂義士以上、比翼塚《ひよくづか》を立てろ!」というようなことになるのであります。
けれどもまた、怜悧《りこう》な人は折助をうまく利用して、評判を立てさせたり隙見《すきみ》をさせたりするのでありました。それによって多少成功する者もないではありませんでしたけれども、やっぱり折助の立てた評判は折助以上に出でないことを知るようになりました。
今、駒井能登守の屋敷を覗いて、米友に叱り飛ばされた折助も、おそらくは誰かに利用されて、隙見に来たものでありましょうが、この酒場へ逃げ込むと大急ぎ
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