を差込んで、首をグッタリと蒲団《ふとん》の上へ投げ出して、何事もなく転寝《うたたね》の形でありました。お銀様はその前に伏して面《かお》を埋めて、忍び音に泣いているのでありました。外の雪は、まだまだ歇《や》むべき模様もなく、時々吹雪が裏の板戸を撫《な》でて通り過ぎると、ポタポタと雪の塊《かたまり》が植込の梢《こずえ》を辷《すべ》って庭へ落ちる音が聞えます。
「幸内というのは、ありゃ、お前様の兄弟か」
「いいえ、雇人でござりまする」
 竜之助は転寝をしながら静かに尋ねると、お銀様は忍び音に泣き伏しながら辛《かろ》うじて答えました。
「雇人……」
 竜之助はこう言って、しばらく言葉を休んでいました。
「幸内がかわいそうでございます、幸内がかわいそうでございます」
 お銀様は、また泣きました。
「いったい、神尾はあれをどうしようというのだ」
「神尾様は幸内を殺してしまいました、あの人が企《たくら》んで幸内を殺した上に、わたくしを欺《だま》して、わたくしの家を乗取ろうという悪い企みだそうでございます」
「神尾のやりそうなことだ」
と言って竜之助は、敢《あえ》てその悪い企みを聞いて驚くのでもありま
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