って、どことなしに強いところがあって、その上に一段と高尚で、それからこの古雅な趣《おもむき》……よく見れば見るほど刃の中に模様がある」
「どうぞ御免あそばしませ」
「お銀どの、そなたはこの刀にお見覚えはござらぬか」
「ええ」
「この刀……」
「ええ、このお刀に、わたくしが、どう致しまして」
「それ故に篤《とく》と御覧なされいと申すのじゃ、怖がっておいでなさるばかりが能ではない、気を落着けて御覧なされい」
「それに致しましても、どうしてわたくしが、このお刀を存じておりましょう」
「もしそなたが知らぬならば、そなたの家の幸内という者が知っている、その刀がこれなのじゃ」
「ええ?」
「これは伯耆《ほうき》の安綱《やすつな》という古刀中の古刀、名刀中の名刀じゃ」
「ええ! これが伯耆の安綱?」
「打ち返してよく御覧なされい」
ここに至ってお銀様は、一時《いっとき》恐怖の念がいずれへか飛び去って、眼の前に突きつけられた伯耆の安綱の刀に、ずっと吸い寄せられました。お銀様がその刀をじっと見つめている時に、神尾主膳は片手で、近くにあった朱塗の大盃を取って引寄せ、それに片手でまた酒をなみなみと注ぎまし
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