よく門の外へ飛び出した三人は、卍巴《まんじともえ》と降る雪を刎《は》ね返してサッサと濶歩しましたけれども、米友は跛足《びっこ》の足を引摺って出かけました。
「米友」
能登守が振返って呼ぶと、
「何だ」
米友は傲然《ごうぜん》たる返事であります。
「冷たくはないか」
能登守も南条も五十嵐も、歩みながら振返って、米友の素足を見ました。
「はッはッはッ」
米友は嘲笑《あざわら》って、かえって自分に同情を寄せる先生たちの足許を見ました。この一行は勢いよく雪を冒して進んで行きます。どこへ行くのだか知れないけれども、たしかに荒川筋をめあてに行くものと見えました。
前に言う通り天地はみんな雪であります。往来の人の気配《けはい》は極めて少なくあります。犬の子は威勢よく遊んでいました。たまに通りかかる人も、前に言うような見当から、誰も一行を怪しむものはありません。その中の一人が能登守であるということすらも気のついたものはありません。
その同じ朝、神尾主膳は朝寝をしておりました。この人の朝寝は今に始まったことではないけれども、この朝は特別によく寝ていました。それは昨夜の夜更《よふか》しのせいも
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