駕籠の助けを仮《か》らず、笠と合羽と草鞋《わらじ》で出かけることが、勇ましいと言えば勇ましい、気軽といえば気軽、また例の好奇《ものずき》かと笑えば笑うのでありましたが、それとても、すぐに三人の後に附添うた一人のお伴《とも》の有様を見れば、ははあなるほどと納得《なっとく》ができるのであります。
 そのお伴は鉄砲を担《かつ》いで、弾薬袋を肩から筋違《すじかい》に提《さ》げておりました。能登守はこうして今、家来とお伴とをつれて雪に乗じて、得意の鉄砲を試そうとするものと見えます。そうすればなるほど能登守らしい雪見だと、誰もいよいよ異議のないところでありましたけれど、その鉄砲を担いで弾薬袋を提げたお伴《とも》なるものが、尋常一様のお伴でないことを知っていると、また別種な興味が湧いて来なければならないのであります。
 その伴は宇治山田の米友でありました。前に立った三人ともに合羽を着ていましたけれど、米友だけは蓑《みの》を着ていました。三人は脚絆《きゃはん》と草鞋に足を固めていましたけれど、米友だけは素足でありました。三人は大小を差していましたけれど、米友は無腰《むこし》でありました。
 さて、勢い
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