》りつけてありました。
 お松はそれを提げてみて、思わず微笑しないわけにはゆきませんでした。その竹筒の一端に「十八文」という烙印《やきいん》が捺《お》してあったからです。
 それでお松はすっかり合点がゆきました。「十八文」が一切を了解させてくれたのみならず、いろいろに胸を痛めたり心を苦しめたりしていたお松を、腹を抱えさせるほどに笑わせました。
 あの先生はおかしい先生であると思って、お松は思出し笑いをしながらも、その親切を嬉しく思いました。これは兵馬さんのための薬である。兵馬さんが病気であるために、おじさんが道庵先生に調合してもらって、ワザワザ持参したものと思って見れば、有難くて、その竹筒を推《お》しいただかないわけにはゆきません。
 してみれば、これを兵馬さんの許《もと》まで届ける責任は、わたしに在るとお松は勇み立ちました。別に厳重な封じもないのだから、その懸想文のような結状を取って開いて見ると、それは道庵先生一流の処方箋でありました。
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「もろこし我朝に、もろもろの医者達の出し申さるる薬礼の礼にもあらず……ただ病気全快の節は十八文と申して、滞りなく支払するぞと
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