がくぜん》として我にかえりました。我にかえると共に慄え上りました。
「どなた」
お銀様の歯の根が合いませんでした。そこに頭巾《ずきん》を被《かぶ》って袴《はかま》を穿《は》いて立っているのは武士の姿であります。
「驚き召さるな、拙者は通りかかりの者……してそなたは?」
存外、物優《ものやさ》しい声でありました。
「わたくしも通りかかりの……」
お銀様は辛《かろ》うじてこう言いました。
「この場の有様は、こりゃ………」
武士もまた、さすがにこの場の無惨《むざん》な有様に、悸《ぎょっ》として突立ったきりでありました。
「そこに誰か斬られているのでござりまする、そうしてこの子供がここに投げ出されておりました」
「また殺《や》られたか」
「どう致しましょう」
この時、武士はさのみ狼狽《ろうばい》しないで、
「もしや、そなたは有野村の藤原家の御息女ではござらぬか」
と聞かれてお銀様は狼狽しました。
「左様におっしゃる、あなた様は?」
「拙者は神尾主膳でござる」
「神尾主膳様?」
「伊太夫殿の御息女に違いないか」
「はい」
お銀様は神尾主膳の名を聞いて一時に恥かしくなりました。主膳はお
前へ
次へ
全207ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング