ようやくかたことを言えるくらいの男の子。お銀様はその子を固く抱いて頬ずりをしました。
その時に、お銀様の鼻に触れたのは紛《ぷん》として腥《なまぐ》さい、いやないやな臭いであります。お銀様はその臭いが何の臭いだか知りませんでしたけれど、むっと咽《む》せかえるようになって、我知らず二足三足歩いて見ると、そこの地上にまた一つ、物の影があるのであります。
「人が倒れている」
お銀様はまさしくそこに倒れている人を見ました。その人が尋常に倒れているものでないことを直ぐに感づきました。怪我で倒れたのでもなし、病気で倒れたのでもないことに気がつきました。
「ああ、どうしよう、人が斬られている、殺されている!」
天地が遽《にわ》かに暗くなって――暗いのは最初からのことだが、この時は腹の中まで暗くなりました。前後左右四方上下から、真黒な大鉄壁を以て、ひたひたと押えつけられるような心持になって眼がくらくらと眩《くら》んでしまいました。
けれども胸に抱いた子は、いよいよ固く抱いておりました。
幼な子を抱いて闇の中に立っていたお銀様の肩を、後ろから軽く叩いたものがあります。
「もし」
お銀様は愕然《
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