にと思いました。
 こうして暫らく山路を進んで行くうちに、
「その駕籠、待たっしゃい」
という声で、山路の静寂が破られました。「待たっしゃい」という声は、少なくとも士分にゆかりのある者でなければ、掛けられない声でありましたから、さては向うから進んで来た侍の何者かによって、その駕籠の棒鼻が押えられたものだろうと兵馬は、またそこに止まってなりゆきを見ていました。
「八幡村の小泉家から、今日の流鏑馬を御見物の客人二人、ぜひにお泊め申そうとしたのを、どうあっても今夜中に帰らねばならぬ用向きがござるそうな、それ故に夜分を厭《いと》わずこうやってお送り申す、どうかこのままで失礼を」
「いやもう御遠慮なく。今日の騒ぎと言い、近頃はどうも世間が落着かない故に、我々も毎晩こうしてこの山路を宵のうち一度ずつお役目に廻るのでござる。左様ならばお大切に」
 双方でこんなことを言い合って、疑念も蟠《わだか》まりもサラリと解けて、そのまま駕籠は前へ進んで行き、こっちへ来る人影は、提灯もなにも持たないけれど、三人ほどに見えました。
 兵馬は木蔭からそれをもやり過ごすと、それからの山路はまた静かなものになってしまいま
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