滞《とどこお》らぬようにしました。
 この二仏二神のおかげで、甲府の土地が出来たのだというのが古来の伝説であります。最初に言い出した地蔵様は甲府の東光寺にある稲積《いなづみ》地蔵で、次に山を蹴破ったのが蹴裂《けさく》明神で、河の瀬を作った不動様が瀬立《せだち》不動で、山を切り穴を開いた神様が、すなわちこの穴切明神であるというこの縁起《えんぎ》も、お銀様はよく知っているのでありました。ここへ来て夜の更けたことを知ったお銀様は、はじめて自分の無謀であったことと、大胆に過ぎたことを省《かえり》みる心持になりました。前に来た時には、日中であったに拘《かかわ》らず、しかもお城の真下であったに拘らず、悪い折助のために酷い目に遭ったことを思い出して、ついにこの夜更けにこの淋しい道を、どうして自分がここまで来て、無事にここに立っていられるのかをさえ思い出されて、ぞっと怖ろしさに身をふるわすと、例の物悲しい、いじらしい子供の泣き声であります。
 なんだか知らないけれども、その泣き声が自分のあとを慕うて来るもののようでありました。自分を慕うて幼な子があとを追っかけて来るもののように、お銀様には思われてなり
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