にいた神尾主膳をはじめ数多かりし侍たちまでが、小森の飛んでもない失策が何によったかを知ることができないで、呆気《あっけ》に取られるばかりでありました。
 さすがに小森だけはそれを知って、直ちに弓を捨てて刀を抜きましたけれど、花鋏を受け留めただけで、当の敵にはサッパリ手答えがありません。
 罵《ののし》る群集も、驚く侍たちも、歯噛みをする小森も、一斉に屋根の上を見上げた時に、前の通り屋根の上を、平地を駈けるが如く飛んで行く旅人体《りょじんてい》の男を見るのみであります。
 その時は、もう小柄《こづか》を投げても及ばない時で、もちろん弓の弦をかけ直したり、替弓を取寄せたりする余裕はありませんでした。
「この鋏で、これこの通り。憎い奴だ」
 小森は落ちた花鋏を拾い上げて、神尾に示し、人混みの中に紛れ込んでいた奴が、不意にこれで張り切った弓弦《ゆんづる》を後ろから切ったということを、言葉と挙動とで忙《いそが》わしく説明しました。
「実に言語道断の敏捷《すばしこ》い奴じゃ、掏摸《すり》どもの仲間に相違あるまい、あれあの通り」
 屋根の上の旅人体の男を小森は空しく指して、無念の形相《ぎょうそう》を
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