こと。
 それよりも早いのは、いま桟敷の下へ潜ったかと思うと、もうその裏から同じ男の姿が桟敷の屋根の上に現われたことでありました。
「あれよあれよ」
といううちに、その男は平地を飛ぶように桟敷の屋根の上を飛んで、正面大屋根の修羅場《しゅらば》へ駈けつけるのであります。
 弦を切って投げつけた花鋏《はなばさみ》だけは受けとめたけれども、小森は歯噛みをして、空しくその敏捷な男の走るのを見送るだけでありました。
 小森は歯噛みをしたけれど、見物は一度にドッと喝采《かっさい》しました。喝采して、
「態《ざま》あ見やがれ!」
と怒鳴った時は、小森の矢が幔幕へ当ってダラリと落ちた時でありました。彼等はその大人げない侍が、見《み》ん事《ごと》、矢を射損じたと見たからそれで、
「態あ見やがれ!」
と喝采したのであります。そこに別の人が潜り込んでいて、花鋏でいま張り切った弓弦《ゆんづる》をチョキンと切ってしまって、態あ見やがれと叫んで、花鋏を投げつけて、桟敷の下へ潜って行ったというような細かい働きは、彼等には認めることができませんでした。
 彼等が認めることのできなかったのは無理もないことで、すぐその傍
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