の大屋根の上では、がんりき[#「がんりき」に傍点]が一人舞台で、大勢を相手に立廻っていることは前の通りであります。組ませないで突くという策戦がよく成功して、大勢の命知らずを萎《ひる》ませていることも前の通りであります。そのうちに、大勢の命知らずが左右へ散って、がんりき[#「がんりき」に傍点]の身体が一つ、真中へちょうどよい塩梅《あんばい》に離れた時分をみすまして、この時とばかり、満々と張った弓を切って放そうとした途端、どう間違ったのか知らないが、さしも手練の小森の矢先が、竹トンボのように狂ってクルクル廻って、右の上の桟敷に張りめぐらした幔幕《まんまく》の上へポーンと当って、雨垂《あまだれ》のように下へ落ちてしまいました。
 これはと驚く小森の手に、持った弓の弦《つる》が切れていました。
「無礼者」
 小森は弦の切れた弓を抛り出して、刀を抜打ちにすると、
「態《ざま》あ見やがれ」
 抜打ちにした小森の面《かお》をめがけて、一挺の花鋏《はなばさみ》を投げつけた旅人風体《りょじんてい》の男。笠を冠って合羽を着て草鞋《わらじ》に脚絆なのが、桟敷の下を潜《もぐ》って身を隠したその素早《すばや》い
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