って宇津木兵馬も、人波の中に揉まれていなければならなくなったし、奥方様という女乗物の一行が、まともにそれと打突《ぶっつ》かったのは気の毒でもあり、慮外千万な出来事でもありました。
「無礼者、控えろ」
お供先の足軽や侍が駈けつけました。
「どうでもしてみやがれ」
短刀を揮《ふる》った裸一貫の男は、敢《あえ》て警固の足軽や侍を畏《おそ》れようとはしません。
「控えろ!」
棒を持ったのが、追っかけて来る博徒を遮《さえぎ》りましたけれども、博徒連中は、そんなものが眼に留まらぬくらいに気が立っていました。
「野郎、ふざけやがって……」
「無礼者、控えろ」
ここでお供先の足軽や侍は、博徒連を取押えるために、彼等を相手に格闘せねばならなくなりました。
「喧嘩だ、喧嘩だ」
と群衆は、いよいよ沸き立たないわけにはゆきません。
短刀を左の手で揮った裸の男は、右の手が無いにも拘らず、その身体《からだ》のこなしの敏捷なことは驚くべしであります。取押えようとする同心や足軽の手先の棒先を潜《くぐ》り廻って、あちらへ抜け、こちらへ抜ける早業が、充分に喧嘩と人騒がせに慣れきっているものの振舞です。
女乗物
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