ったのみならず、士分の者や、町民の由緒《ゆいしょ》と富裕とを持った者の桟敷に至るまでも、やはり注目の標的《まと》となりました。
 太田筑前守は、席を占めていたけれど、駒井能登守はまだ見えません。
 神尾主膳は、それよりも先に例の一味の者を語らって、例の桟敷に詰めていましたが、やはり評判につれて、向い合ったこの桟敷に現われた美しい女房の姿を、目につけないわけにはゆきませんでした。
「なるほど」
 主膳の左右にいる者の小声で噂《うわさ》するところによれば、あれこそ、新支配の駒井能登守が、このごろ新たに手に入れた寵者《おもいもの》ということであります。
「そうか」
 神尾主膳は遠くから、皮肉のような好奇《ものずき》のような眼をかがやかして、その美しい女房の現われた桟敷に篤《とく》と目を注ぎました。
「あれが……」
と言って主膳は、その目を細くして、わざとらしい不審の色を浮ばせました。
 そのわざとらしい不審の色が、険《けわ》しい眼の中へ隠れて行く時に、ハタと膝を拍《う》った神尾主膳はなぜか、
「はははは」
と、そんなに高くはなかったけれど、四辺《あたり》の人を驚かすほどに笑いました。それは皮
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