れども、今日そこの桟敷に姿を現わした美しい人は、その例外でありました。前二日には全く姿を見せなかった人であるのみならず、その桟敷も一間を占めて、太田筑前守の夫人にもおさおさ劣らぬほどの格式で見物に来たものですから、疑問が大きくなりました。
「あれがそれ、駒井能登守様の奥方よ。どうだ、おれの言った通り素敵《すてき》なものではないか、醜婦《ぶおんな》で嫉妬《やきもち》が深くて、うっかり女中にも手出しができないと言ったのは誰だ、ここへ出て来い」
例の見物席にこんなことを言い出すものがありました。
「なるほど」
それらの見物の眼は、一斉《いっせい》にこの桟敷へ向います。
そう言われて見れば、それに違いないと思うもののみであります。奥方とはいうけれども、そこに処女《おとめ》のような可憐なところが残っていました。その可憐な中には迷わしいような濃艶《のうえん》な色香が萌え立っていました。人に遠慮して、わざと横を向いている面《かお》には初々《ういうい》しい恥かしさがありました。一糸も乱れずに結い上げた片はずしの髷《まげ》には、人の心に食い入るような油がありました。
これは大入場の観客の問題とな
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