たけれども、追々に陽気になって行くのに、ひとり主人役の神尾主膳のみが、苦り切って、酒を飲むこと薬を飲むようにしているのは、いつもに似気《にげ》なき様子であります。こうして当日の八幡社前へは、甲州一円のあらゆる階級の人が集まることになりました。
 あとからあとからと蟻の這《は》うように、馬場をめざして人の行列が続きます。この分ではとても落々《おちおち》と流鏑馬《やぶさめ》の見物は出来まいからと諦《あきら》めて、竜王の花火の方へ河岸《かし》を換えたのもあったから、竜王河原もまた夥《おびただ》しい人出でありました。
 これらのあらゆる種類の見物のうちに、まだ一つ閑却することのできない種類の見物《みもの》があります――それは例の折助の一連でありました。
 手の空《す》いた折助連中はその倶楽部《くらぶ》である八日市の酒場に陣取って、これから隊を成して馬場へ押し出そうというところであります。
 一口に折助と言ってしまうけれども、団結した折助の勢力には侮《あなど》り難いものがあるのであります。また彼等は渡り者であるだけに、みな相当の歴史を持っているのであります。食詰者《くいつめもの》であるだけに、か
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