がつづきます。それをまた右にしては鶏冠山《けいかんざん》、牛王院山《ごおういんざん》、雁坂峠《かりざかとうげ》、甲武信《こぶし》ケ岳《たけ》であります。
素足で坂を登りきったお角は――坂といっても袖切坂はホンのダラダラ坂で、たいした坂でないことは前に申す通りです。そこで、お角は米友を顧みて、
「友さん」
と米友の名を呼びました。
「よく覚えておきなさい、この坂の名は袖切坂というのだから」
そういう言葉さえ余憤を含んでいるのが妙です。
「袖切坂……」
米友は、お角に聞かされた通り、袖切坂の名を口の中で唱えましたけれど、それは米友にとってなんらの興味ある名前でもなければ、特に記憶しておかねばならない名前とも思われません。
「ナゼ袖切坂というのだか、お前は知らないだろう」
「知らない」
「知らないはずよ、わたしだって、ここへ来て初めて土地の人から、その因縁《いわれ》を聞いたのだから」
お角は坂を見返って動こうともしません。米友もまたぜひなくお角の面《かお》と坂とを見比べて、意味不分明に立ちつくしていました。そこらあたりは畑と森と林が夕靄《ゆうもや》に包まれて、その間に宿はずれの家の屋
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