「かまいたち」に傍点]にでもやられたのかね」
米友は多少、それを気遣《きづか》ってやらないわけにはゆきません。
「そんなことじゃない、袖切坂で、わたしは転んでしまったのだよ、ちぇッ」
お角の言いぶりは自暴《やけ》のような気味であります。
「袖切坂がどうしたって」
「ここがその袖切坂なんだろうじゃないか、ところもあろうに、あんまりばかばかしい」
「そりゃ木鼠《きねずみ》も木から落っこちることがある、転んだところで怪我さえしなけりゃなあ」
「怪我もちっとばかりしているようだよ、向《むこ》う脛《ずね》がヒリヒリ痛み出した」
と言ってお角は、紙を取り出して左の足の膝頭《ひざがしら》を拭くと、ベッタリと血がついていました。
「やあ血が!」
米友も、その血に驚かされると、お角は、
「怪我なんぞは知れたことだけれど、袖切坂で転んだのが、わたしは腹が立つ」
お角は、よくよくここで転んだのが癪で堪《たま》らないらしい。
袖切坂を登ってしまうと行手に大菩薩峠の山が見えます、いわゆる大菩薩嶺《だいぼさつれい》であります。標高千四百五十|米突《メートル》の大菩薩嶺を左にしては、小金沢、天目山、笹子峠
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