根だけが見え隠れして、二人の立っているところには、「袖切坂」という石の道標に朱を差したのが、黄昏《たそがれ》でも気をつけて読めば読まれるのであります。
「この坂で転んだ人は、誰でも、その片袖を切ってここの庚申塚《こうしんづか》へ納めなくてはならないことになっている。それを知っていながら、わたしはここで転んでしまった。なんという間の抜けた、ばかばかしいお人好しなんだろう、わたしという女は」
お角は、こう言って身を震わして焦《じ》れったがりました。お角の焦れったがる面と言葉とを、米友は怪訝《けげん》な面をして見たり聞いたりしていました。
「人間だから、根が生えているわけではねえ、転んだところでどうもこれ仕方がねえ」
米友はこう言いました。
「あんまりばかばかしいから、わたしは片袖なんぞを切りゃしない。この坂へ来ては子供だって転んだもののあるという話を聞かないのに、いい年をしたわたしが……坂の真中でひっくり返って、おまけにこの通り御念入りに創《きず》までつけられて……」
膝頭《ひざがしら》の創が痛むのか、お角はそこへ手をやって押えてみましたが、
「友さん、わたしがここで転んだということ
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