びかけられたから米友は驚きました。
「エ、エ!」
 眼を円くして見ると、
「ほら、どうだ、友さんだろう」
と女はなれなれしく言って傍へ来るから、米友はいよいよ変に思いました。
 もう黄昏時《たそがれどき》でよくわからないけれども、その女はこの辺にはあまり見かけない、洗い髪の兵庫結《ひょうごむす》びかなにかに結った年増の婀娜者《あだもの》のように見える。着物もまた弁慶か格子のような荒いのを着ていました。
 はて、こんな人に呼びかけられる覚えはないと米友は思いました。
「誰だい」
「まあ、お待ちよ」
と言って女が傍へ寄って来た時に、はじめて米友は、
「あ、親方」
と言って舌を捲きました。これは女軽業の親方のお角《かく》でありました。なぜか米友ほどの人物が、このお角を苦手《にがて》にするのであります。この女軽業師の親方のお角の前へ出ると、どうも妙に気が引けて、いじけるのはおかしいくらいです。
 もともと、黒ん坊にされたのは承知のことであって、道庵先生に見破られたために、その化けの皮を被《かぶ》り切れなかったのは米友の罪でありました。米友はそれは自分が悪かったと、それを今でも罪に着ているから、
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