それでお角を怖れるのみではありません。
もし前世で米友が蛙であるならば、お角が蛇であったかも知れません。どうも性《しょう》が合わないで、それが米友の弱味になって、頭からガミガミ言われても、得意の啖呵《たんか》を切って、木下流の槍を七三に構えるというようなわけにはゆかないから不思議であります。
「あ、親方」
と言って米友が舌を捲くと、お角の方は今日は意外に素直《すなお》で、その上に笑顔まで作って、
「どうしたの、今時分、こんなところをうろついて……」
「これから江戸へ帰ろうと思うんだ」
「これから江戸へ、お前が一人で?」
「うん」
「そうして、どこから来たの、今夜はどこへ泊るつもりなの」
「甲府から来たんだ、今夜はどこへ泊ろうか、まだわからねえんだ」
「そんなら、わたしのところへお泊り」
「親方、お前のところというのは?」
「いいからわたしに跟《つ》いておいで」
米友は唯々《いい》としてお角のあとに跟いて行きました。お角はまた米友を従者でもあるかのように扱《あしら》って、先へさっさと歩いて袖切坂を上って行きます。
「お前、甲府へ何しに来たの」
「俺《おい》らは去年、人を送って甲府へ来
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