した。
「どっこいしょ」
と言って米友は、竹皮笠を土間から取り上げて被《かぶ》りました。その紐を結びながら、
「やいムク州、永々お世話さまになったが、俺《おい》らはこれからおさらばだ、お前も達者でいなよ」
ムク犬は悄然として、二人の間の土間にさいぜんから身を横たえていました。
「十七姫御が旅に立つヨ、それを殿御が聞きつけてヨ、留まれ留まれと袖を引くヨ」
米友は久しぶりで得意の鼻唄をうたいました。この鼻唄は隠《かくれ》ケ岡《おか》にいる時分から得意の鼻唄であります。これだけうたうと笠の紐を結び終った米友は、例の棒を取り直して、さっさとここを飛び出してしまいました。
九
米友が出て行ってしまったあとで、お君は堪えられない心の寂《さび》しさを感じました。
ムクはと見れば、そこにはいません。おそらく米友を送るべくそのあとを慕って行ったものと思われます。
その時に、この米友の部屋の後ろへそっと忍んで来た人がありました。台所口から、
「こんにちは」
と細い声でおとなうのは、やはり女の声でありました。
しばらくすると、
「こんにちは」
二度目も同じ声でありました。
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