と能登様といずれかにお頼み致すよりほかはなかろうと思っておりまする。また別に組頭や奉行衆のうちにしかるべきお方があれば、その方へお頼みすることにしてもかまいませぬ」
「左様でございますな、お組頭やお奉行衆のうちで……それも結構でございますが、御当家様のお媒妁としては、やはり御支配様をお頼みになるのが順当でございましょう。その御支配様と申しましても、能登様は御新任の上に、お年もお若いし、それに奥方様をお連れになりませぬ故、やはりお年と申しお二方のお揃いと申し、筑前様をお頼みあそばすが至極よろしいことのように存じまする」
「わたしもそう思いまする。それに主膳殿は能登様とは合いませぬ」
「左様……」
「もとは同じぐらいの格式の旗本、それで同じところへ勤めていると、若い同士でどうも気拙《きまず》くなって困ります」
「けれども能登様へも、一応のお話は申し上げませんと」
「それは筑前様の方を、よくよくお頼み申しておいて、お話をきめた上で能登様へは一通りの御挨拶だけにしておきたいと、主膳殿も申しておりました」
「左様でございますな……あれで能登様もなかなか肯《き》かぬところがおありなさるから、万一、
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