はなおさらにわかりませんでした。
いろいろと、わからないことはありましたけれども結局、お君はお銀様の同情者でありました。お銀様がああして焦《じ》れておいでなさる心持も、お君には我儘《わがまま》だとばかりは思われませんでした。お銀様と幸内との間は知らないけれど、幸内がいなくなってお銀様が一層焦れ出したことは、側についていて手に取るようにわかるのでありました。その後お銀様がお君を愛するために、怖ろしいような挙動をなさることも度々ありました。今やそのわたしもお側を離れてしまう。お銀様はお一人。どうかこの上ともお仕合せにお暮しなさるようにと、お君は目に涙を持って、心のうちに祈りました。
五
神尾主膳の邸ではこの頃|普請《ふしん》が始まりました、建増しをしたり、手入れをしたりするために、大工や左官が幾人も入りました。
表の方では鑿《のみ》や鉋《かんな》の音で景気がいいし、奥の方は奥の方でまた、箪笥《たんす》、長持、葛籠《つづら》の類を引き出して女中たちが、虫干しでもするような騒ぎであります。
正月が近いから、それで御普請をなさるのだろうと表の方では言っていましたけれ
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