ましたが、続いて同じような形《なり》をして、同じ年頃の娘が、これも同じように頭巾で面を包んで出て来たのを見ると、
「おや」
米友は実にカッとしてしまいました。
「おっと待ってくれ」
こう言って暗《やみ》の中から飛び出してしまったのは、米友としてはぜひもないことであります。
「何、何だと」
はしなく米友がその場へ飛び出したことによって、その場は大混乱を惹《ひ》き起しました。
その混乱を聞きつけて折助どもが飛び出して来ました。折助どもが米友を支えている間に、市五郎は、差図してズンズン駕籠を進ませてしまいました。
ほどなく米友の姿は市五郎の家の屋根の上に現われました。彼は杖を持って、いつのまにかその俊敏な身を屋根の上へと刎上《はねあ》げてしまったものと見えます。
米友の姿が屋根の上に現われた時に、下では折助どもが喧々囂々《けんけんごうごう》として噪《さわ》ぎ罵りました。梯子《はしご》を持って来いと怒鳴りました。俺は頭を三ツ四ツ続けざまに、あの棒で殴られたと言って歯咬《はが》みをしているものもありました。眼と鼻の間を一撃の下に打ち倒されて、鼻血を出して頭の上げられない者もありました
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