。博奕《ばくち》をしていたのも、無駄話をしていたのも、みんな馳せ集まって来ました。
下では、こうして折助が芋を揉《も》むようにして噪いでいるのを、米友は見下ろしてハッハッと息を吐きました。
「ちぇッ、口惜しいなア、こいつらに邪魔をされて、あの駕籠を追蒐《おっか》けることができねえのが口惜しいなア」
屋根の上で足を踏み鳴らしつつ口惜しがりました。
四辺《あたり》を見廻しても、夜は真暗であります。真暗い中に甲府の城が聳《そび》えています。二の廓《くるわ》は右手の方に続いています。前も左もいずれも武家屋敷であります。
屋根へ上った米友は、いつぞや古市の町で宇津木兵馬に追い詰められた時のように、屋根から屋根を泳ぐつもりでありました。
米友は小躍《こおど》りして屋根の瓦の上を走りました。
「ソレ、そっちへ行った」
折助が噪《さわ》ぎました。
「ヤレ、こっちへ来た」
梯子《はしご》が飛び廻りました。ヒューと石が飛んで来ました。
「危ねえ!」
お手の物で米友は、その石を発止《はっし》と受け止めました。
「竹竿で足を打払《ぶっぱら》え」
折助は物干竿《ものほしざお》を幾本も担ぎ出しま
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