《ぎぐ》するところがありません。戸でもあいていたなら、そこから家の中へ入ってしまったでしょう。けれど、戸はよく締めてあり、節穴もないことはないし、壁の隙間もあるにはあったけれど、中は障子が立てきってあったり、真暗であったりして、どうも思うように家の中を窺《うかが》うことができません。
もしも、それらしい女の声でもしたらと、耳を戸袋へ密着《くっつ》けたりなどしましたけれども、それらしい声も聞えません。米友はこうして家の周囲を一通り廻ってしまいました。
今度は縁の下へ潜《もぐ》ってみようと思いました。短躯《たんく》にして俊敏な米友は、縁の下を潜るのにことに適当しております。
米友が縁の下へ潜ろうとした時に、表の方で人の声がしました。
「へえ、お迎えのお駕籠《かご》でございます」
縁の下へ潜りかけた米友は、その声を聞き咎《とが》めて耳を引立てたが、急に縁の下へ潜ることを見合せて、その声のした方へ出かけました。米友は立木の蔭から、今この家の表へ来た駕籠と駕籠舁《かごかき》とをじっと見ていました。駕籠が二挺釣らせてありました。人足は提灯を持ったり、息杖《いきづえ》をかかえたり、煙草を喫ん
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