寒い思いをしたのとが儲けもんで、風邪を引いたのが利息だ、ばかばかしいっちゃあねえ」
「ははははは」
折助どもは、愚痴を言っている折助を笑いました。
「いったい親方は、あんな狂言をして、あんな化物娘を引張り込んでどうする気だろう、姉御の縹緻《きりょう》だってマンザラではねえし、どうも役割の気が知れねえ」
「そりゃお前、なんだな、あれはおトリ[#「トリ」に傍点]というものさ。あれをああしておトリ[#「トリ」に傍点]にしておけば、それ案《あん》の定《じょう》、あとから音色《ねいろ》のいいのがひっかかって来ようというものじゃねえか。けれどもこりゃ、役割が色に転んだ狂言じゃあねえ、慾にかかった仕事だよ」
「なるほど」
米友は、折助どもの話を聞いてギクリとしました。
米友は大部屋から奥の方へソロソロと歩み出します。今の話によっても、ぜひぜひこの家に突き留めねばならぬものがあることは、充分に合点してしまいました。
米友はそこやここをウロウロと歩いて、戸の節穴や壁の隙間を覘《ねら》っていました。誰かに見つかればまさしく泥棒の仕業であります。しかしもう心のいっぱいに張りきっている米友は、更に疑惧
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