もまた、そう言えばキット俺らに会いたがる」
「おやおや、こりゃあお安くねえわけだ」
と言って折助は、またおかしな面《かお》をして、米友の面をジロジロと見ました。
 この問答が事ありげなので、そこへ屋敷の中から二三人の折助がまた面を出しました。
「どうしたのだ」
「ははは、この大将が、はるばる国許《くにもと》から女を追っかけて来たんだ、そうして後生だから一目会わせてくれという頼みよ。会わせてやらねえのも罪のようだし、そうかと言って、会わせて間違えでも出来た日には、取返しがつかねえし、どうしたものかと、挨拶に困っているところだ」
「なるほど」
 彼等は充分の侮辱を以て、米友の面をしげしげとのぞいて、
「は、は、は」
と嘲笑《あざわら》いしました。米友は勃然《むっ》として、
「何だ、何がおかしいんだ」
 手に持っていた杖を取り直しました。
「まあ、兄さんや、そんなことを言わねえで帰りな。そりゃ、お前の眼で見ると、どの女もこの女も、みんなその国許にいた馴染の女とやらに見えるんだろうけれど、今ここを通った女はありゃ、ちっとお前には縁が遠いんだ。悪いことを言わねえから、ほかへ行って、もう少しウツリ
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