》がって箒を持った手を休めました。
「今、ここへ娘が一人、入ったろう、仲間《ちゅうげん》につれられて娘が一人入ったろう」
「ふん、それがどうしたい」
「それを聞きてえんだ、あの娘はありゃ、この家に奉公している娘かい、それともまたよそからお客に来た娘なのかい」
「それをお前が聞いてどうするんだ」
折助は突き放すように答えました。
「それを聞かなくちゃならねえことがあるんだ、後生《ごしょう》だから教えてくれ」
米友は突き放されじと焦《せ》き込みました。焦き込めば焦き込むほど、米友の調子が変になりますから、折助などが嘲弄するには、よい材料であります。
「ははは、ずいぶん教えてやらねえもんでもねえがの、いったいお前はどこの何者で、あの娘っ子とは、どんな筋合いがあるんだ、それから聞かしてもらった上でなけりゃあ骨が折れめえじゃねえか」
「うむ、俺《おい》らはいま八幡様に奉公しているんだ。名前か、名前は米と言ってもよし、友と言ってもかまわねえんだ。今たしかにこの家の中へ入った娘は、ありゃ、国にいた俺らの幼な馴染とよく似ているんだ、よく似ているじゃねえ、あの子に違えねえのだから会いてえのよ、向うで
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