していましたけれど、その挙動によってもわかる通り、さいぜんからこの辺に忍んで、何か様子を探っていたものらしくあります。廊下の下から本邸の方を見上げて、なおキョロキョロしている面を見れば、それは役割の市五郎の手先をつとめている金助という折助でありました。
金助は廊下の縁の下から顔を出したけれども、また暗の中へ消えて姿が見えなくなりました。しばらくすると奥庭の方へそっと忍び入って、また縁の下へ潜《もぐ》ろうとする気色《けしき》であります。首尾よく縁の下へ潜り了《おお》せたか、それともその辺に忍んで立聞きをしているのだかわかりませんが、とにかく、それっきり姿を消してしまいました。
ややあって、ウーとムク犬の唸《うな》る声がしました。いったん米友をつれて帰って来たムク犬が再びどこかへ行って、また立戻って来たものと見えます。この唸る声を聞くと、あわてふためいて縁の下から転がり出したものがあります。それは以前の金助でありました。
金助の狼狽の仕方は夜目にもおかしいくらいであります。二三度ころがって、やっと塀まで行くと、塀際の柳の木へ一生懸命で走せ上ってしまいました。柳の木へ登ると共に、塀へ手
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