留めねばならぬ」
「さあ、その用意をしろ、何か得物《えもの》はないか、あたりを探してみるがよい」
 二人は同時に立ち上りました。そうして裸蝋燭《はだかろうそく》は卓子の上から南条の手に取り上げられて、
「おい、宇津木、聞いていたろう、いま話したようなわけで我々は、これから非常手段の実行にかかるのじゃ。うまくいけばよいけれど、多分うまくはいくまいと思う。仕損じたらそれまでだ、我々は斬死《きりじに》するか、或いは身を以て逃れるか二つに一つじゃ。自然、君にも充分に手が届かぬかも知れぬ。ともかく、君はこうして待っていろ、病気でもあるし、本来、君には何の罪もないのじゃ、君を捕えに来たものがあったら、その時、この場でよく申し開きをするがよい。いいか、眠っているうちに何者にか連れ出されたと、こう言ってしまえば理も非もない。また我々が首尾よく抜け出しさえすれば、明日とも言わず迎えの工夫をする、どっちにしても落着いて寝ていることが肝腎《かんじん》じゃ」
 この声を聞いて、寝台の上に能登守の筒袖羽織を被《かぶ》せられて寝ていた宇津木兵馬が、起き直ろうとして動きかけましたが、かの廊下の扉の方にあたって、トー
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