じことだ」
「さあそれだから、いつまでもこうしてはいられぬ、まだ夜の明けぬうち、この靄と闇との深いうち、ここを逃げ出すよりほかに手段はあるまい。この場合ぜひもないから、この室に金銀があらば金銀、衣服があらば衣服、大小があらば大小、それらのものを借受けて出立致そうではないか」
「待て待て、外の様子に耳を傾けてみるがいい」
 それで室内が森《しん》として静まると、外でする喧《やかま》しい声が、鳥の羽音のように聞え出しました。それは能登守が前に聞いたのと同じく、この屋敷のまわりを走り廻る捕手の者が罵り合う声であります。それに加うるに、この屋敷の長屋に住んでいた者までが、起きて加わって罵り噪《さわ》いでいる様子であります。
「なるほど」
 五十嵐はそれを聞くと、観念をしたものらしくあります。
「これでは、外へ出られぬ」
 二人は、またも暫く沈黙して室の中が静かになりました。
「よしや、斯様《かよう》に捕方に囲まれずとも、このままで逃げ了《おお》せるものではない、山野を駈けめぐっているうちに、飢えと疲れが眼の前へ来て、やがて見苦しいザマで引戻されるにきまっている、どちらにしても袋の鼠になってしま
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