州路へ立退くようにしてあると言うから、それを信用していたのだ。あの贋金使いという奴は心の利いた奴だから、それを信用して間違いないと思っていた、また事実、間違いはなかったのだろうけれど、途中で犬に吠えられたのが運の尽きでこんなことになってしまった。これから先はどうと言うて、拙者にもいっこう考えがつかぬ、五十嵐、君に何か思案があらば聞こうではないか」
「君に思案のないものを拙者において思案のあろうはずがない、ともかくも杖と頼んだあの贋金使いとハグれたのが我々の不運じゃ、悪い時に悪い犬めが出て来て邪魔をしたのがいまいましい」
「闇と靄との中から不意に一頭の猛犬が現われて出て、我々には飛びかからず、あの贋金使いに飛びかかった、贋金使いも身の軽い奴であったが、あの犬には驚いたと見えて逃げたようだ、それを犬が追いかけて行ったきり、どちらも音沙汰《おとさた》がない、声を立てて呼ぶわけにはいかず、跡を追いかけるにもこの通りの闇、そのうち前後左右には破牢! 破牢! という捕手の声だ、それを潜《くぐ》って、やっとここへ忍び込んだけれど、これとても鮫鰐《こうがく》の淵《ふち》の中で息を吐《つ》いているのと同
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