と、どこをどうしたかそれらの足音が、たしかにこの家の中へ入って来ているのであります。しかも能登守のいま寝ているところから僅かの廊下を伝って行き得る、あの洋式の広間へ入り込んでいるらしいのであります。
 この時に能登守は起き上って寝衣《ねまき》の帯を締め直しました。寝衣の帯を締め直すと共に床の間にあった、銃身へ金と銀と赤銅《しゃくどう》で竜の象嵌《ぞうがん》をしてある秘蔵の室内銃を取り上げました。
 室内銃というてもそれは拳銃ではありません。普通の火縄銃よりは少し短いものであって、やはり火縄銃ではありません。
 これはコルトの五連発銃というのによく似たものであります。けれども舶来のものではありません。能登守自身が工夫して作らせた秘蔵のもので、五連発だけは充分に利くのです。
 能登守はこの室内銃を携えて、寝間を抜け出して廊下伝いに離れの洋式の広間へと、そっと忍んで行きました。
 廊下を突き当って、その洋式の研究室へ入るには、やはり洋式の扉《ドア》であります。扉の傍の窓の隙から能登守はまず室内の様子を覗いて見ました。
 火の気のなかるべきところに意外にも燈火《あかり》が点《つ》いています。そ
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