耳を澄ましていた能登守の耳へ歴々《ありあり》と聞えました。屋根の上のは何者とも知れないが、この塀の外のはまさしく捕方《とりかた》の人数であります。捕方の人数というのは、今宵《こよい》破牢のあったそれがために、まだまだこの辺を固めている役人の手配が、少しも弛《ゆる》まないことが知れるのであります。
「次第によったら、この能登守殿のお屋敷の中へ忍び込んだかも知れぬ、御門番を起して案内を願うてみようか」
「この夜中《やちゅう》、お騒がせ申しては相済まぬ、もう暁方も間近いほどに、このあたりを蟻も這《は》い出ぬように固めて待とうではないか、暁方にならば風が出るでござろう、風が出たならば自然に靄も吹き払われるでござろうから」
こんな申し合せの声も聞えます。そうして彼等はこの屋敷のまわりを固めているらしいのであります。
能登守はそれと頷《うなず》いている時に、暫らく静かにしていた屋根の上の足音がまた、ミシリミシリと聞えはじめました。つづいて※[#「手へん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と庭前《にわさき》へ落ちる物の音がしました。つづいて軒下を密《ひそ》かに走る者がある様子です。暫らくする
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