た親切な人に助けられたりして、今ではお前、このお屋敷でずいぶん出世……をしているのよ。その間だって、友さんのことを心配していない日と言ってはありゃしない、どうかしてわたしの居所《いどころ》を知らせたいと思って、手紙を書いてもらって二度ばかり、両国のあの宿屋へ沙汰をしたけれども、さっぱりその返事がないから、わたしはどうしようかと思っていた」
「あれからの俺らというものは、あの宿屋にばかりいたんじゃあねえのだ。まあ追々ゆっくり話すよ、こうして会ってみりゃあ文句はねえのだが。そりゃあそうと気の毒なのはこの人だ、どこのどういう人だか知らねえが、口がまるきり利けねえのだ。ムクが案内するから俺らが天満宮の後ろの森の洞穴《ほらあな》の中から見つけ出して来たんだ、途中で冷たくなったから死ぬんじゃあねえかと心配して、俺らが急所へ活を入れてやって来たおかげで、どうやら持ち直した、この分なら生命《いのち》は取留めるだろう。口が利けるようになりさえすれば占めたものだが」
「明日になったらお医者さんを呼んで上げましょう、今夜のところは寒くないようにして上げておいて……友さん、もう遅いからお前さんもここへお寝なさ
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