、薬を飲ませておきました。
「友さん、いつお前江戸を立ってどうして甲府へ来たの。来るならば来るように、飛脚屋さんにでも頼んで沙汰をしておいてくれればいいに」
「冗談《じょうだん》言っちゃあ困る、飛脚屋に頼むにもなんにも、からきりお前の居どころが知れねえじゃねえか、それがためにずいぶん俺《おい》らは心配したぜ。ほら、ほかの軽業《かるわざ》の連中はみんな帰って来たろう、何かこっちで揉《も》め事があったとやらだが、でもみんな無事に帰って来て、両国でまた看板を上げてるのに、お前ばかりは帰って来ねえんだ。どうなったか、さっぱり様子がわからねえから、俺らはあの小屋まで聞きに行ったんだ。聞きに行くとお前、いつかの黒ん坊の失策《しくじり》があるだろう、それがために今でもあの親方が俺らをよく思っていねえんだ、それで追い払われちまったから腹が立ってたまらねえけれど、我慢してあの宿屋へ帰ってよ、それからこっちへ来る人があったから、その人のお伴《とも》をして連れて来てもらうまでの話はなかなか長いんだ」
「わたしだってお前、ずいぶん苦労をして死にかけたことが二度も三度もあったのよ。それでもムクがいてくれたり、ま
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